Interview

2017年12月12日

ネットベンチャーから、老舗企業へ

元CA社員が挑む、老舗企業デジタル化への挑戦(前編)

デジタル化が拡大する昨今、多くの老舗企業がITによる効率化や販促の強化を推し進めています。その一つが、340年以上の歴史を持つ(※)老舗企業である三越伊勢丹です。同社は2016年4月に全社のデジタル化促進を行う情報戦略本部を新設しました。その改革を進めるのが、WEBマーケティングのプロフェッショナル・田村さんです。

田村さんは、サイバーエージェントでPCやモバイル領域の広告営業、コンサルタント、さらに中国でのビジネス拡大に挑戦した後、三越伊勢丹に転職しました。情報戦略本部にて全社のデジタル化や、中国向けECの展開などを手がけています。大手IT企業サイバーエージェントを離れて、老舗企業の三越伊勢丹で挑戦をする理由、そして未来の展望をお伺いしました!

※三越は1673年に越後屋として、伊勢丹は1886年に伊勢屋丹後呉服店として創業。

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 情報戦略本部グループマーケティング戦略部

WEBメディア推進担当マネージャー

田村有紀

2008年、サイバーエージェント社に新卒で入社。PC、モバイルサイト作成や、広告、企画などの提案において新規開拓に従事。2011年からグループ会社のマイクロアド社の中国支社に異動、上海に2年半赴任。2014年、サイバーエージェント社に帰任後は日本国内でスマートフォンメディア戦略コンサルタントとして従事。2016年より三越伊勢丹社に入社。越境EC事業の立上げや宣伝費削減プロジェクト、国内オンラインビジネス全体像の戦略立案に従事。

「デジタルマーケティング」を軸とし、あえて非IT企業に挑戦

ーまずは、田村さんの経歴を教えてください。

2008年にサイバーエージェントに新卒で入社し、モバイルの新規営業、メディアコンサルタント、ソーシャル運用コンサルタントなどを経験したのち、2011年から中国の上海で、サイバーエージェントグループのマイクロアド・チャイナという会社の立ち上げに従事しました。クライアントはほぼ現地企業の中、採用や事業拡大を行いました。

2014年に日本に戻りスマートフォンを軸にしたメディア戦略コンサルタントを担当しました。

その後、2016年3月に三越伊勢丹に転職し、2016年4月に新設された「情報戦略本部」という部署で、三越伊勢丹のグループ全体でWEBやITをどのように活用・導入するかを検討し、最適化するための戦略立案を行っています。

 

ー情報戦略本部では、具体的にどのような業務を?

昨年1年間は主に越境EC事業の立上げを担当しました。日中のパートナー選定から、業務フロー構築、中国でのPR戦略の立案と実行を行い、着任後8ヶ月でローンチを実現しています。
今年に入ってからは、国内におけるWEBマーケティング事業戦略と、国内オンラインビジネスの将来像の策定を担当しています。店舗情報やECサイトの情報などを見たお客さまが、三越伊勢丹に興味を持ち、どうすればより三越伊勢丹に足を運びたくなるだろうかを考えたり、お客さまが実際に足を運ぶ店舗でデジタルを活用し、購買体験をさらに豊かにすることや、便利にお買い物をすることができないかを検討・実践しています。

 

ーサイバーエージェントでのキャリアを活かして、三越伊勢丹でITの導入や新規プロジェクトの立ち上げなどを行なっているのですね。

私は、人の心理を考えて、仕掛けること、その仕組みを作ることに面白みを感じていました。そこで、デジタルマーケティングを軸にして、もっと幅広く、もっと消費者に近い視点で考えて、仕掛けていきたいと思うようになったんです。
さらに、今まで学んできたWEBの知識をより社会に還元していくには、ITやWEBを中心とした企業よりも、WEB知識が比較的少ない非IT企業に入ろうと考えていました。その結果が、三越伊勢丹での挑戦でした。

 

ー三越伊勢丹を最終的に選択した理由は、どのようなものだったのですか?

大きな理由は2つあります。

1つは、企業の課題に対して、自らの経験が多いに役立つと感じたからです。三越伊勢丹は、340年以上の長い歴史があり、その文化を脈々と引き継いでいる部分が多い一方で、企業としてITの導入やデジタル化には多くの課題を持っていました。もっとデジタルを活用して、店舗誘致やグローバル展開などに力を入れたいが方法がわからないという状態だったんです。そこの課題解決には私の持っているITやWEBでのスキル、そして中国での経験が役立つと思いました。

また、百貨店は ”モノ”だけではなくて “コト”も提供していく場所ですし、物を買うときにも大抵は、お客さまにとって「大事な人にプレゼント」「頑張った自分のご褒美」といった特別な思いやストーリーが伴っています。このようなお客さまのストーリーやニーズに寄り添い、お客さまが来店して購買するまではもちろん、そしてお客さまのお祝い事やライフステージ、お客さまの人生に沿ったアプローチを行うことができる。そうしたリアル店舗を含めたマーケティング活動も、デジタルのみではなく経験ができるというのは、非常に魅力を感じました。

歴史ある企業の体制や考え方にデジタル施策を持ち込むというのは難しいことでもあるのですが、やりがいはあります。

 

中国ビジネスの苦労と成果

ーサイバーエージェント時代の中国赴任についてお聞かせください。

 私が中国上海にいた時期(2011年〜2014年)は、日本と同様中国でもスマートフォンが台頭してくる時期でした。ただし、中国ではモバイル回線は遅いのと、使われ方も日本と異なっていたので、そもそもスマートフォンを使ってどうやってマーケティングをするのかということ自体も手探りでした。
それに、初めての中国で、初めてチームを持ってマネジメントしなければならず。毎日悩んで、毎日成長痛を感じていました。
クライアントは7割以上が現地企業なので、日本人として私は、現地採用の社員の営業、広告マンとしての教育をしながら、中国人社員が働きやすいように環境整備や営業体制の構築を行なっていました。

(田村さん撮影の、上海の様子。)

 

ー当時の中国のインターネット環境やマーケットはどのような状態だったのですか?

 2011年の中国では、スマートフォンの広告はとても少なく、需要もまだまだPC主流といった形でした。そもそものインターネット全体の普及率が30%程度。とはいっても3億人程度なのですが。PCは非常に高価で、PCを楽しめる十分な速度があるインターネット回線も整備されていなかった。日本だとガラケーでも3G回線が主流で、着うたをダウンロードしたり、ゲームをしたりしていたと思いますが、中国の場合はモバイルはほぼ2G回線。ISDNとADSLくらいの違いと言ったらイメージがわきやすいでしょうか。ガラケーもネットはほとんど使いものにならなかったんです。
そこにスマートフォンが出てきて、PCを使わない人たちもインターネットを使うようになってきました。ただ、見た目はiPhoneで中身はAndroidとか、指を画面に滑らせても反応しない、かなり強く圧をかけて動かさないと動かない感度の悪いタッチパネル付きスマートフォンとか、そうした日本からは考えも及ばない物が数千円から1万円程度から販売されていた部分もあり、非常に価格的にも「インターネット端末」が手に入りやすくなりました。
ネット回線自体も急速に高速で安定、安価に提供されるようになり、インフラも整ってきたことによって、急速にスマートフォンを中心にインターネットが普及し、現在では7億人のインターネットユーザーのうち、スマートフォンなどのモバイルインターネット利用ユーザーは6億人以上という環境になっています。

 

ー急成長している市場に、飛び込んでいったわけですね。

そうですね。2011年は東日本大震災があった年で―。日本全体が節電していてとても暗かった時でしたが、上海はすごく活気があって、みんなが一生懸命働き、生きている活力が伝わってくるんです。ああ、私はここの地で頑張って、少しでも日本を元気にしたい、とにかく頑張っていこうという思いで動いていました。
できないながらも、とにかく中国の現地の人と話して、中国語のサイトでも情報収集を積極的にし、とにかくすべてを吸収して早く成果を出して、日本の人を刺激できれば、そんな思いで日々奮闘していました。

 

ー苦労や、成長した側面は?

マイクロアドは、当時中国ではある意味ベンチャー企業として中国進出したのですが、中国は雇用が不安定だったり、ブランド企業が重宝される風潮があるので、良い人材を採用するのが難しく、採用や育成の面で苦労はありました。また、文化としても当時は仕事のプライオリティがプライベートよりも低いところがあり、仕事をモチベーション高く遂行してもらう点においては苦労も多かったですね。
ただ、次第に文化が異なる国で働いているので、次から次へ予期せぬことしか起こらないので、何事にもあまり動じなくなりましたし、心が広くなったと思います(笑)。予測不能なトラブルしか起こらないので、さすがに慣れてくると余裕も出てきますし、冷静に大抵のことは対処することができてきました。
苦労もしましたが、こんなにも急速に中国のインターネット市場、広告市場、マーケティング、そしてライフスタイルの変化をリアルタイムに見ることができたことは、とても貴重な経験でした。今も自身の経験に生きていることは多いと思います。

 

ー現職でも越境ECの参入を実現したとのこと。現在も中国ECの部分には関わっていらっしゃるんですか?

手離れしている部分もありますが、改善案を出したり施策に口を出したりしています。ECは現在最適化の最中なのですが、中国未進出の化粧品会社と組んで、イベントを打ち出したり。そういう取り組みでも動画の生中継で400万いいね!がついたりするんです。

 

ー生中継で400万いいね!ですか・・・日本だと著名なインフルエンサーほどのインパクトですね。

中国市場の面白さは新しいことにチャレンジしやすいところです。そして、規模が大きいので反応の桁が1つ違うんです。
Weiboのフォロワー数が1000万人、2000万人いる企業も多いですし、規模感の大きさやインパクトの大きさは面白さの1つですね。
これから更に伸びる中国ECビジネスへの挑戦も含めて、三越伊勢丹では本当に色々とチャレンジをさせてもらっていると感じます。

 

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前編では、田村さんがサイバーエージェント時代に手にした「デジタルマーケティングスキルについて」そして、「中国ビジネスの経験」、その裏側にある苦難の道についてお伺いしました。

デジタル領域、そして中国ビジネスと自らが歩んできたキャリアを1つずつ掴み、非IT系の業界に還元していく挑戦は、とても魅力的でやりがいがあると感じました。

 

後編では、田村さんがこれまでの経験・スキルを携えて行う三越伊勢丹のデジタル化、その挑戦について伺います。

 

取材・文大沢 俊介

1994年2月生まれ。神奈川県秦野市出身。フリーランスのライター。渋谷にあるHR系スタートアップを経て、現在はフリーランスとして「ワークスタイル」「HR」を中心テーマに据えて執筆活動中。現在はライターとして活動しつつ、採用広報支援や採用サイト制作など、HRを軸とした制作・PR代行事業を展開している。
http://shittaka.tokyo/