Interview

2017年12月12日

ネットベンチャーから、老舗企業へ。

元CA社員が挑む、老舗企業デジタル化への挑戦(後編)

サイバーエージェントでモバイル広告の営業、そして中国ビジネスの立ち上げを担当してきた田村さん。日本に帰国後、キャリアについて再考した田村さんは、転職をすること決意。転職先は同業のIT企業ではなく「三越伊勢丹」という老舗企業でした。
前編では、田村さんがネット系企業の次のステップとして、三越伊勢丹という老舗企業を選択した理由、そして中国ビジネスの立ち上げの苦労について聞きました。後編では、老舗企業で働く魅力、そしてデジタル推進の挑戦に迫ります。

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 情報戦略本部グループマーケティング戦略部

WEBメディア推進担当マネージャー

田村有紀

2008年、サイバーエージェント社に新卒で入社。PC、モバイルサイト作成や、広告、企画などの提案において新規開拓に従事。2011年からグループ会社のマイクロアド社の中国支社に異動、上海に2年半赴任。2014年、サイバーエージェント社に帰任後は日本国内でスマートフォンメディア戦略コンサルタントとして従事。2016年より三越伊勢丹社に入社。越境EC事業の立上げや宣伝費削減プロジェクト、国内オンラインビジネス全体像の戦略立案に従事。

このインタビューは後編です。前編はこちら:「ネットベンチャーから、老舗企業へ。元CA社員が挑む、老舗企業デジタル化への挑戦(前編)」

 

伝統を肌で感じる働き方

 

ー中国ビジネスを経て、三越伊勢丹に転職した後、中国ECと全社デジタル化を担当する中で、どのような手応えがありましたか?

私が所属する情報戦略本部が新設してからは、より社内でテジタル化に勢いがつきました。一方で、実店舗にてお客さまと直接対面することを重視していることもあり、デジタル化を進めづらい部分も感じています。

 

ーどういうところに課題を感じるのでしょうか。

インターネットの世界では、スピード勝負の世界で、走りながら改善をしていくといった戦い方をしてきた私にとっては、リスクを全て洗い出し、対応策を考え、幾度もシミュレーションを行い、社内で何層もの決裁を取って進めていくので、決定・実行までは想像していた以上に長く感じます。ただ、歴史も規模もある企業ですし、動かす金額も大きい場合が多いのと、今まで培ってきたお客さまからの当社へのイメージも含めて、簡単に物事を進めて、後戻りができない企業のため、必要なことであるとも感じています。

 

ー現在の業務の中で前職の経験が活きているところは?

転職先を決める時の判断軸も、「これまでの経験が活かせるかどうか」という部分が強かったので、これまでの経験すべてが多いに活用できていると思います。デジタルやマーケティングの知識はもちろん、中国市場の経験も合わせてある人材は三越伊勢丹の中ではおそらく私以外にはいませんでしたので、任せてもらえていると感じる部分は多いですし、自分の経験を十分に還元できていると感じます。

 

ー逆に、IT企業から老舗企業へ転職したことで、視野が広がったことはありましたか?

人との接し方、ビジネスの仕方、ビジネスの進め方という部分で特に成長できたと思っています。
インターネット系企業は業界全体が若いですが、今の職場では目の前には60歳の方がいて、横には50歳の方が座っている。平均年齢が高いということは、それだけ仕事においても多くの経験をされている方が多いと思っています。

サイバーエージェントで働いていた時は、「新しいことに積極的に挑戦する」「成果にコミットする」「助け合う」というような文化のもとで働いていました。三越伊勢丹では、私が所属している組織が会社全体を統括する立ち位置に属しているのもありますが、「人をいかに導くか」、「人をどうマネジメントしていくのか」、「経営者視点に立って大企業としていかに戦略を考えていくのか」、そして、「大きく、伝統のある組織の中で、残すべき伝統を考え、同時に新しいことに挑戦するのか、それをどう業務フロー、ステップを踏んで全社に浸透させていくのか」という文化の中で働かせていただいています。

インターネット系企業から転職する人が少ないこともあり、部署では異質な存在として見られることもあるのですが(笑)、それでも年齢の離れた人たちや、バックグラウンドが今までと大きく異なる方々と一緒に仕事をさせていただく環境は、学ぶことは非常に大きいです。

 

伝統を守りつつ、新しい風を起こす

 

ー老舗企業でのデジタル化はやはり苦労がありますか?

そうですね。そもそものデジタルの知識や、良し悪しを、デジタル経験が少ない人に理解してもらうことは難しいこともあります。
ツールを導入することで結果としてコストが下げられるとしても、自社で構築していて、お店の商品管理・販売システムにも紐づいているシステムなので、導入のハードルが非常に高かったりすることもあります。それに、単純に環境や制度、業務フローが変わることへの怖さを感じる方も中にはいらっしゃるのも事実です。

 

ー変化への怖さですか。

そうですね。本当に、三越伊勢丹は、老舗企業として生きてきた知恵というか、ビジネスの方法自体が正攻法としてあって、堅実に成果をあげてきました。
なので、なかなか新しいこと、特に自分たちの経験としては浅いデジタル関係の話自体、イメージが湧きにくいのかなと思います。今まで培ってきた知恵やブランドを、デジタル含めて劇的に刷新したり捨てたりするのではなく、活かしながら少しずつでも課題を解決していくことが重要で、デジタル施策は様々な課題の解決方法の選択肢の1つとして、既存のマーティング方法と合わせてうまく活用できればと考えています。
小売業界の中でも大手ファッションプラットフォームやフリマサービスなど他業種が成長してきている中で、これまでの旧来の方法を続けるだけではいけないという感覚は百貨店業界には共通の感覚だと思います。
三越伊勢丹がこれまで老舗としてのブランドや歴史を維持してこれたのは、時代の先頭を切って走ってこれたからだという自負もあります。今の時代においても、新しい挑戦をし続け、今の時代にあったやり方で三越伊勢丹のブランド価値を高め、さらなる歴史を築いていきたいですね。


ー伝統のある企業の中で、時代に最適化し続けることというのは、重大なテーマですよね。ありがとうございます。
伝統ある企業での「変革」という部分のお話を聞いたのですが、IT企業から現職に変わって感じた心境の変化は?

前職ではBtoBでお客さまと接することはあっても、その先にいる消費者の方の顔、声を聞けることは、あくまでクライアントの担当者を通してのみ聞ける内容でした。それが、三越伊勢丹ではお客さまの顔も声も直に聞こえるので、自分がやっていることに関して実感がわきやすく、やりがいを感じます。
私自身も店頭に立っていることがたまにあるのですが、そのときにもお客さまの生の声を聞くことができます。生でお客さまの声を聞き、過去の人たちが培って来た歴史を感じることができます。
単純に数字が上がることは嬉しいですし、わかりやすい指標ではあると思うのですが、それだけではなくて、言葉で「伊勢丹が好きで、毎日来ているのよ」とお客さまの声が聞けるのはとても嬉しいです。

 

ーリアルにお客さまと触れ合う環境は、やはり魅力的ですよね。

そうなんです。やっぱり直接お客さまと触れ合って、声を聞けることが普段の業務にも反映できますし、リアルな感情を感じられるのは、性に合っているんだろうなと思います。

 

ーリアルな感情が動く瞬間を見れる魅力ですね。ありがとうございます。最後に田村さん個人として、今後の目標を教えていただけますか。

今後は、「人々の生活にどれだけ影響を与えられるか」という視点で、仕事をしていきたいと思っています。三越伊勢丹にご来店頂くお客さまや、情報に触れたお客さまのお買い物をする上での体験を、デジタルを通じて少しでもよくしていきたいですね。
軸は「デジタル」・「マーケティング」・「中国」の3つかなと。この3つは私の中での強みだと思いますので、ここを大事にしながら、仕事と関わり続けていけたらなと思います。
個人としては、結婚や出産を見据えて、現場を離れても戻ってこられる自分なりの武器をしっかりと備えておきたいと思っています。そのために、リアル店舗含めたビジネスの中でもおおいに活用できるデジタルマーケティング能力を高めていきたいですね。

 

 

前編・後編を通じて、田村さんのキャリアの軸、そして広告代理店にいたからこそ気づいた本質に迫ることができました。ネットベンチャーにいたとしても、その後の挑戦が同業である必要はない。むしろ、他業界・他業種にこそ「IT」の力が求められているのかもしれません。老舗企業のデジタル改革。これから街中を歩いて、三越伊勢丹の店舗へ立ち寄る際には、そのデジタルの魅力、そしてアナログの魅力を両軸で体感したいと感じました。

 

前編はこちら:「ネットベンチャーから、130年の伝統企業へ。元CA社員が挑む、伝統企業デジタル化への挑戦(前編)」

取材・文大沢 俊介

1994年2月生まれ。神奈川県秦野市出身。フリーランスのライター。渋谷にあるHR系スタートアップを経て、現在はフリーランスとして「ワークスタイル」「HR」を中心テーマに据えて執筆活動中。現在はライターとして活動しつつ、採用広報支援や採用サイト制作など、HRを軸とした制作・PR代行事業を展開している。
http://shittaka.tokyo/