音楽×ITのリアルー日本でサブスクリプション型音楽配信サービスは成功するか?

※この記事は、2015年10月発刊の「Grand Style」の記事を一部修正し、掲載しています。

欧米では何年も前から親しまれてきたサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービス。日本でも、音楽を定額で楽しめる時代がやってきました。新サービスによって日本の音楽業界はどのように変化・発展していくのでしょうか。

音楽×ITの今後の在り方について、日本の音楽産業を知り尽くすビクターエンターテインメント・今井さん、ユニバーサルミュージック・島田さんと、音楽配信サービスを展開するAWA・小野さんの3名にお話を伺いました。

※この記事は、2015年10月発行の「Grand Style」の記事を一部修正し、掲載しています。

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株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント デジタルビジネス部 部長 今井一成さん
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ユニバーサル ミュージック合同会社 執行役員 島田和大さん
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AWA株式会社 取締役 小野哲太郎さん

どんな形であれ、音楽のニーズがある限り楽曲を届ける

―音楽業界から見て、日本でのサブスクリプション型音楽配信サービスの導入については、率直にどんな印象を抱いていますか?

島田:海外では数年前から『Spotify』をはじめとした定額性サービスがあり、世界的には新しい形ではないので、次のビジネスモデルとしていつか日本にもくるだろうとは思っていました。

小野:今の若者たちにはCDをプレーヤーに入れて楽しむというスタイル自体がもう存在しないし、パソコンからCDドライブがほとんど消えています。なのに、音楽業界はCDソフトをまだ量産していて…。考えてみると、今までがある意味、不思議な状態でしたよね。なので、自分も今後、定額制サービスは絶対外せないだろうと思っていました。

島田:そうですよね。CDの売上低下やデジタルのダウンロードの市場がなかなか伸びないと言われていますが、実際には、ライブ業界が伸びていたり、JASRACの著作権使用料が伸びてたり、音楽市場全体で見ると、日本はまだ伸びている認識を我々は持っています。音楽のニーズがある限り、どんなフォーマットであっても、そこに楽曲を届けることが我々の仕事。CDかデジタルかとか、サブスクリプションかダウンロードかという二者択一ではなく、いろいろなフォーマットの可能性を追求していくべきだと思っています。

小野:私もまさにそう思いますね。いくつかのサービス形態が置かれていていいと思います。その時の自分のスタイルに合う新しいものをどんどん使っていけばいいし、最終的にそれらを判断するのは、我々ではなくて音楽ファンですから。

―CDを買わなくても音楽を聴くことができる今の時代に感じている変化はありますか?

小野:音楽の価値観が大きく変わったなとしみじみ感じます。我々の世代は、テレビで新しい曲を知って、レコード屋さんで聴いて、どうしてもほしい物はお金を貯めて買って…常に音楽がいいポジションにあったんです。しかし、今の若い世代はCDを買わなくてもインターネットを使って、いつでも簡単に音楽を聴くことができる。

島田:根本的に、世代間の認識が違っていますよね。我々だと、音楽は “CDを買って聴くもの” 、”ダウンロードして聴くもの”ですが、今の10代~20代前半ぐらいの人たちは、音楽は “YouTubeで見るもの”。お金を払わないことが当たり前のようになっています。

小野:単純にどちらが良い悪いではなくて、音楽の立ち位置が変わったなと感じますよね。

島田:ええ。もちろん、気軽に音楽を聴けることになったという意味ではいいことでもありますが、音楽が無料という前提をいかに乗り越えていくかは今後の音楽業界の課題です。

今井:私も驚いたんですが、ユーザーの方から「なんでわざわざ有料にするんですか?」というような問い合わせが結構くるんです。あれを見た時は、衝撃的でしたね。こんなにも音楽が無料だという認識が強いのかと。一方で、全般的にサービスは好調で、無料利用期間が終わった後の課金転換率も悪くありません。「お金を払って使いたい」と思ってもらえるように、さらに新たな価値を提供していきたいと思っています。

課題は “わかりやすさ”と “経済性”

―実際、アーティストの方々からの反応はいかがですか?

小野:もちろん、サブスクリプション型のサービスには参入したくないと考えるアーティストもいます。CDに誘導したいアーティストもいれば、ダウンロードに誘導したいアーティストもいて、人それぞれなので。ただ、「じゃあミュージックビデオの映像はYouTubeで無料でフルサイズで見せるのに、どこが違うのか」という話にもなってくる。また、そもそもアーティストのところまでサブスクリプション型のサービスがどんなものであるのか、情報が降り切っていない。そこには、もう少し時間がかかるかもしれません。

島田:私の認識としては、 “わかりやすさ”と “経済性”という2つポイントがあると思うんです。 ”わかりやすさ”というのは、たとえばCDが1枚売れたら、1曲ダウンロードされたら…という収益面でのわかりやすさです。サブスクリプション型は、今までのモデルと違うので、そこがまだちゃんと伝え切れてない部分があるとと思います。
そして、2つ目の “経済性”ですが、サブスクリプションに参入した結果、CDの売上が落ちるのではないかという不安があるんです。今、世間ではよくCDが売れないと言われていますが、実際には日本ではまだCDは音楽流通の8割ほどの市場を占めています。なので、そこへの影響が気になるのはある意味当然です。ただ、本当にこっちが上がればこっちは落ちるみたいなゼロサム的な構造になっていくのかどうかは、誰にもわからないことです。前例がないからこそ、こういった新サービスに対しては、皆ものすごく慎重ですし、なかなか踏み出せない部分があるのかなと思います。

今井:私たちも、今CDを買っている層を『AWA』の方へ誘導しようとは思っていません。結果的にCDの売上が下がってしまっては、音楽業界としてはただ安い方にリプレイスしただけになってしまうので、それは我々も本望ではない。それよりも、世の中に出回っている無料の違法アプリを使って満足してしまっている層や、音楽を聴かない層にアプローチしていきたいと思っています。『AWA』で新しいアーティストや好みの音楽に出会ってもらい、そこからCDを買ったりライブへ行ったり、さらに深いところまで音楽を楽しんでもらえるような流れにしていきたいです。

小野:やはり、最初はどうしてもCDの市場や売上と比較して、どう変わっていくのかという話になりがちです。8割という市場があるが故に、皆怖がるわけですよ。しかし、今後CDのマーケットが拡大していくとは思えないし、少しずつ衰退しているのは確かです。誰かが新しいマーケットに切り込んでいくしかありません。

音楽との出会い、再発見への期待

―サブスクリプション型のサービスを導入したことで、音楽業界にはどういった影響が生まれているのでしょうか。

小野:長い間ずっと眠っていたたくさんの楽曲が、サブスクリプションサービス投入したことによって、再度注目を浴びるようになりました。我々も、すべてのアーティストのすべての作品が頭に入っているわけではなく、「こんな作品がうちにあったのか」という新たな発見が我々自身にもあるんです。

島田:過去の楽曲はすべて我々の財産ですからね。それらの運用を活性化させていくという意味では、私もサブスクリプション型が最も適していると思っています。

小野:その意味では新しい顧客を見込めるサービスとしても期待できます。新曲をヒットさせるとか、アーティストのプロモーションとは、また違うビジネスが生まれてきそうです。

今井:まさに、そこが我々のコンセプトになっています。世の中では日々新しい音楽が生まれ、プロモーションされるので、どうしても新譜にばかりに目が行きがちです。でも実は、少し視点を変えると、そこにも素晴らしい音楽がたくさんあります。そういう音楽と出会ってもらう機会をつくろうと思ったのが『AWA』のコンセプトになっています。

島田:そのポイントは、ユーザーの立場からしても重要だと思っています。
例えば、私は、『AWA』の70年代や80年代の楽曲も聴けるRADIOモードが好きです。その時代のCDってもう持ってないこと多いんですが、『AWA』であれば、気軽に聴くことができるし、自分が気づかなかったところで埋もれていた曲を自然と提供してくれます。

小野:潜在的なニーズを掘り起こしてくれるんですよね。そして、過去の音楽はもちろん、リコメンデーション(おすすめ)機能によって音楽との新たな出会いがあるのもサブスクリプション型の特徴ですよね。

島田:サブスクリプション型音楽サービスが、ダウンロードやCDを買う行為と根本的に異なり全く違う体験・発見を与えてくれるのは、やはりその部分ですよね。新しい音楽と出会い、そこからまたキュレーション式に好きそうな楽曲を並べていってくれる。自分を新たに再発見するような感覚です。

今井:ユーザーからすると、何千万曲とある楽曲のなかで、何を聴いたらいいのかなかなか思いつかないと思うんです。そこで、リコメンデーション機能をつけたのですが、単に、テクノロジーの力でオススメの曲を提示するだけじゃ物足りない。そこで『AWA』は、さらに人が作ったプレイリストをリコメンドするという2段階にしました。

小野:私も、『AWA』はそこが非常によくできていると感じます。スマホ時代では “ソーシャルネットワーク”は切り離せないキーワードですし、音楽は、人に自分のお気に入りの音楽を伝えたり、自分がお気に入りの曲を自慢したいという欲望がでてくるものです。その面でいうと、プレイリストを作って、人からお気に入りに登録されるというのは、その根本的な欲求をついている機能だと思います。

今井:聴く側にしても、同じ曲でも、「ゆっくり起きた日曜日の朝に聴いてほしい曲」「私が失恋で傷ついた時に聴いて救われた曲」というようにストーリーや思いをセットにして聴くのでは、耳の態度が変わるし、心が耳につながった状態で聴けるので、聴いた感覚がまた変わると思うんです。

島田:プレイリストを作って公開する人は今後どんどん増えていきそうですね。今井さんなんて、215個もプレイリスト作ってますもんね?

小野:ふざけたプレイリストばかり作っていますけどね。「アッタマにきたときに8曲の薬」とか。

今井:島田:(笑)。

今井:「YouTuber」や「Instagramer」のように、「Playlister」という新しい肩書きが一般化していく可能性もあるかもしれないと思っています。『AWA』発で、センスのいい人がプレイリスターとして有名になっていく文化を作りたいと思い、プレイリスターのランキング機能も作りました。インディーズのアーティストの方が、有名プレイリスターに曲を紹介されることで注目を浴び売れていくという流れが生まれたら面白い。今井さんのところに、アーティストが「俺の曲を今井さんのプレイリストに入れてください」って頼んでくる時代になるかもしれません(笑)。

音楽×ITの今後

―今後のそれぞれの役割に関してはどのように考えていらっしゃいますか?

島田:やはりレコード会社として絶対に忘れてはならないのは、アーティストがいて、楽曲があって成り立っていることです。アーティストは、自分たちや自分たちの楽曲がサービスの中でどのように扱われているのかを心配しています。自分の曲がサブスクリプションサービスの大量のデータベースの中の1つになると捉えてしまうと、自分の曲が本当に大切に扱われているのかと疑問に思うのです。

小野:そこはすごく難しい部分で、私もアーティスト本人から、「今井さん、じゃあ僕らがアルバムを作る意味って何?」って何回か言われたことがあるんですよ。アーティストにとってアルバムは思い入れが強く、曲順・収録・ジャケット撮影など大変な工程を通して1枚のアルバムを組み立てるんですね。しかし、サブスクリプションサービスの中ではそれぞれの曲を抜き出して独自のプレイリストを作られてしまうので、これまでのアルバムという概念がなくなっていきますよね。そのことをよく思わないアーティストがいるのは事実です。

島田:そのようなアーティストの気持ちは最大限に優先させていきたいとは思いますは、やはり聞いてくれるリスナーがいないところで発展はないですから。今リスナーがどこにいて、どういう嗜好性を持地、スマホ時代の市場で何が起こっているのかという視点を伝えていくことが我々の役割だと思っています。

小野:そうですね。時間はかかるかもしれないですが、サービスの利便性や楽しさは、常に説明していかないといけない。そうすることで、「じゃあ逆にこういうサービスがあるんだったら、こういう作り方をしてみようか」というようなアーティストも早く出てきたらいいなと思います。

今井:『AWA』としては、アーティストの方々に納得いただけるよう、さらにユーザーの方の生活にサービスが溶け込んでいく必要があると思っています。仕事中はパソコンで聴き・電車に乗ったらスマホで聴いて、家ではスマホをテレビにつないで聴いて、休日は車のカーナビに接続して聴ける。デバイスを拡充し、生活の連続性の中に『AWA』が寄り添える状態を作っていきたいです。そして、新しい音楽との出会いの精度をもっともっと上げていきたい。リコメンデーションも、平日なのか土日なのか、朝・昼・夕方・夜の時間帯や天気、季節など、その人のシチュエーションを考慮したものにしていきたいです。

島田:音楽業界でサブスクリプション元年を迎えたんだなと感じます。『AWA』を筆頭に、様々な音楽配信サービスが立ち上がったことは明るいニュースですし、多くの方が市場へ期待をしているということです。そういった意味でも、本当にここからがスタートですね。

今井:音楽業界とIT業界の両方を盛り上げていき、ユーザーに新しい音楽の楽しみ方を提案していきましょう。

※取材・執筆/坪井安奈 『Grand Style』5号  2015年10月発行

 

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