AbemaTVの挑戦〜インターネットテレビ局がマスメディアになるには

「若者がテレビを観ない」と言われるようになった時代に風穴をあけるべく、2016年4月にインターネットテレビ局『AbemaTV』が開局しました。

インターネットテレビ局はいかにしてマスメディアになることができるのでしょうか――

株式会社AbemaTV 取締役の卜部宏樹氏に2017年の展望を伺いました。

 

 株式会社AbemaTV 取締役 卜部宏樹(うらべひろき)
2010年株式会社サイバーエージェント入社。同年、株式会社アプリボット設立、取締役就任。2011年に代表取締役社長就任。2014年12月~2016年10月までサイバーエージェント取締役。2015月4月に(株)AbemaTVを設立、現在、取締役として『AbemaNews』を担当。

 『AbemaTV』

オリジナルのニュース、バラエティをはじめ、音楽、スポーツ、アニメなど、約30チャンネルの多彩な番組を無料で楽しめるインターネットテレビ局。2016年11月に累計1,000万DLを突破。

 

 ■webメディアがマスメディアを目指すには信頼構築が第一

AbemaTVは今年1月でリリースから9ヶ月が経ちました。当初より億単位の規模の投資をして進めてきた事業ですが、想定よりはダウンロード数などの事業数値も上振れており、スタートは好調かなと感じています。ただ、目指しているのはAbemaTVがマスメディアになることで、そこへ向けてはまだまだ道半ばです。ここからさらに伸ばしていきたいと思っています。
これまでの多くのwebメディアサービスは、消費者生成でユーザーがコンテンツをアップし、拡大させていくのが主流でした。一方で、その形態では一定の質を保つことは難しくなるという側面もありました。そういった玉石混交なところもインターネットの良さだと思うのですが、マスメディアを目指しているAbemaTVでは、オリジナルのコンテンツを我々の手で作り、クオリティの高いコンテンツを調達することにこだわっています。そこが、今回のサービスの大きなポイントです。
マスメディアを名乗るうえでは、信頼性が当たり前に求められます。それを構築するためにも、オリジナルのニュース番組はテレビ朝日の報道局が正確性を徹底して制作していますし、ドラマやアニメ、バラエティ番組など他のジャンルでも、高いクオリティを担保することが必要だと思っています。

 

■ターゲット層は若者

地上波のテレビとの一番の違いは、ターゲット層です。地上波では世の中の高齢化に合わせて、介護や年金の話題を多く扱ったり、ドラマの設定に年配の方にうけそうなものを選んだり、番組の内容もそれに寄っているものが増えていると感じます。それに対してAbemaTVは、若者を中心としたスマホを習慣的に使っている層へ向けたコンテンツを多く出しています。実際に、現在の視聴者は10代、20代が多く、最近はドラマを強化したことで女性の比率も増えています。画面1つとっても、スマホを日常的に使うユーザーがパッと見て居心地が良いと感じられることを意識して作っています。

■チャンネル数が無制限

また、チャンネル数が豊富なこともインターネットテレビ局ならではです。地上波のように枠が限られていないので、チャンネル数はいくらでも増やすことができます。現在、チャンネル数は約30ありますが、数だけでなく、各チャンネルのジャンルの振れ幅も重視しています。メジャー感のあるニュースなどの他に、麻雀や釣り、格闘技などのコアなジャンルにも力を入れ、幅広いカテゴリーのチャンネルを用意しています。昨年11月に出したチャンネル視聴数ランキング(b)では、上位3位はアニメのチャンネルが占める結果となりました。その後にオリジナル番組を提供する『AbemaSPECIALチャンネル』、ニュースを放送する『AbemaNewsチャンネル』と続きます。興味深いのは、『麻雀チャンネル』が9位にランクインしたことです。しかも、麻雀番組は1人当たりの視聴時間が他のコンテンツと比べて圧倒的に長く、驚きましたね。韓国ドラマを放送している『韓流・華流チャンネル』は最近追加しました。これからも随時、見直しや追加を行っていく予定です。

 

■“編集しない”良さ

時に編集しないことが良しとされるのもインターネットテレビ局の特徴だと感じています。たとえば、ピコ太郎さんのペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)がギネス世界記録に認定された時の記者会見を、『AbemaNews』では一部始終放送しました。時間にしておよそ1時間です。地上波では、編集していない記者会見をまるまる1時間流し続けるというのはまずできないことだと思います。ですが、編集されていないものを観たいと思う視聴者も多くいるので、包み隠さずに全部観せるというのはインターネットだからこそできる方法で好評をいただいています。昨年の舛添要一元都知事の会見も一部始終を放送しましたし、鳥取県で地震が起きた時には1日中その話題について扱いました。時間の制約を大きく受けないこともインターネットテレビ局の強みだと感じます。

 

■最も注力しているのは“ニュース”:災害時のライフラインとして、そして若者にニュースへの興味を

さまざまなチャンネルのなかでも、注力しているものの1つは『AbemaNewsチャンネル』です。ニュースは日々話題が変わりますし、マスメディアを目指すうえでは大事だと思っています。AbemaTVの開局は昨年4月11日だったのですが、開局して3日後に熊本地震が起きました。停電や避難所生活などでテレビを観られない状況のなか、「AbemaTVを観て安心した」「映像ニュースから情報を得られた」と言っていただけたのは大きな経験でした。速報性のあるものを、いかに早く届けていけるか――メディアとしての社会性を意識するきっかけになりました。
また、スマホで1人で観るものだからこそ、求められるニュースもあると感じています。たとえば、「結婚制度の是非」や「セックスレス」についての議論は、お茶の間で家族一緒に観るにはセンシティブな内容ですよね。そういった、お茶の間で観るには気を遣う場合があるけれど社会的に論点になっているテーマは、スマホで視聴できるインターネットテレビ局でこそ扱うべき領域だと感じています。実際、「死刑を廃止するか、しないか」という議論を番組で行った時には、コメント上で意見交換が活発に行われすごく盛り上がりましたし、都知事選の時の選挙特番もなかなかの視聴数を記録しました。一見若者の関心が薄いと感じるテーマでも、スマホだったら観るということがあり得ると実感した出来事です。『AbemaNews』が、若者がニュースに興味を持つきっかけになれればと思っています。

 

■テレビ×インターネットで生まれるもの:テレビ業界の長所はクオリティへの強いこだわり、インターネット業界の長所は譲れないスピード感

 当社はサイバーエージェントとテレビ朝日の共同出資で設立され、従業員にはどちらの出身者も含まれます。つまり、テレビ業界とインターネット業界が入り混じった組織なのですが、テレビ業界出身の方からは、いつもクオリティへの意識の違いを痛感させられます。彼らは、「絶対に良いものを作るんだ」というコンテンツに対しての意識が突き抜けているんです。
複数のアプリを同時に出して経過を見ることができるインターネット業界とは違って、地上波のテレビ業界では予め枠が決められています。「とりあえず出してみる」というようなことは許されず、決まった枠内でいかに質を上げていくかが勝負の世界です。そんななかでノウハウを積み重ねてきた彼らは、我々には一見同じに見えるものに対しても、「光の当たり方が強い」「色が飛んでいる」などとシビアな判断を下します。「黒み(画面が真っ暗になってしまう状態)を1秒でも出したら放送事故だ」という品質へのプロ意識には頭が下がります。そういったクオリティへの考え方やこだわりは、半年やそこらで追いつける領域ではないと感じますね。現場にそういった文化を根づかせるためにも、各番組のプロデューサーには必ずテレビ朝日出身の番組経験者を立て、日々現場を鍛えてもらっているところです。

一方で、インターネット業界の要素として顕著に取り入れているのは、スピード感です。このビジネスはインターネットのスピード感で進めないと絶対に成功しません。朝令暮改が当たり前と言っても過言ではないほど、スピードと変化に柔軟であることは譲れないポイントです。

当然、ニュースは毎日編成を変えていますし、急な記者会見が入ったり何か事件が起これば、全番組を変更することも厭いません。ニュース以外でも、たとえば映画『君の名は。』ヒット時にいち早く新海誠監督の過去作品を一挙放送するなど、時代の流れに合わせたコンテンツを鮮度が高い状態でできるだけ早く提供することを心がけています。当社では番組調達の担当者が編成まで一気通貫で行っていることが多く、それが素早い編成を実現できている1つの理由かもしれません。

インターネット業界とテレビ業界のそれぞれの文化を融合させた組織作り、コンテンツ作りをしていきたいと思っています。

■マスメディアへと進化する2017年:翌日の会話になることが一歩

AbemaTVが目指すところは、マスメディアです。まずはWAU(Weekly Active Users)1,000万人規模を目指したいと思っています(c、d)。また、「昨日、AbemaTVのアレ観た?」というように、リアルの場で話題に出してもらえるような番組を多く生み出していきたいです。昔は、昨日観たバラエティ番組について翌日の学校や職場で話すという光景がよく見られましたよね。そういう番組がたくさん生まれてくることが、マスメディアに近づくことでもあるのかなと思っています。できるだけ早くAbemaTVがマスメディアとして認知されるよう、飛躍の年にしていきたいです。

 

※取材・執筆/坪井安奈 『Grand Style』9号  2017年1月発行

 

 

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