競合同士のエンジニアを交換!?会社間のボーダレス化の未来

「社会人交換留学」とは、2社の間でそれぞれのエンジニアを1週間交換するという取り組み。昨年、株式会社ドリコムがピクシブ株式会社と初めて実施し、業界内で話題になりました。そして、なんと今年は、モバイルゲーム市場で競合関係にある株式会社ドリコムと株式会社アカツキとの間で2度目の「社会人交換留学」が行われたという。そんなことは果たして可能なのでしょうか? 真相を知るべく、エンジニア座談会を緊急開催しました!

※この記事は、2016年7月発行『Grand Style』7月号の記事を編集したものです。

engineer1(左中)株式会社ドリコム 執行役員 テクノロジー担当 白石久彦(しらいしひさひこ)
大学卒業後、さまざまなサービスやインフラ構築のプロジェクトに携わる。ソフトバンクグループ、(株)レコチョク等を経て、’14年よりドリコムの技術担当役員に就任。

(右中)株式会社アカツキ CTO 田中勇輔 (たなかゆうすけ )
’12年にアカツキへ入社。Rubyとインフラが好物。「人類社会の富を大きく増加させるサービスを作るのが夢です。CTOとして、エンジニアにとって良い組織とは何かを考え続けている。

(右)株式会社ドリコム「社会人交換留学」経験者 石川慎也(いしかわしんや)
大学卒業後、某DBベンダーを経て、’10年にドリコムへ入社。ソーシャルゲームのサーバーサイドエンジニアを経験した後、’15年からはクライアントエンジニアに転向。

(左)株式会社アカツキ「社会人交換留学」経験者 下村匠(しもむらたくみ)
大学卒業後、エンジニアとして経験を積む。’15年にアカツキに入社。現在は、クライアントエンジニアとしてアプリ開発を担当。

 

■競合他社に1週間留学!?

白石(以下、白):当社としては2度目の「社会人交換留学」ですが、同じ業界、つまり競合でもあるアカツキさんと実施させていただくのは、新しいチャレンジでもありました。ですが、結果的にはリスクの不安よりも、メリットの方が圧倒的に大きかったなと感じます。

田中(以下、田):競合同士なので一見ハードルが高そうに思えますが、事前準備をきちんとしていたこともあり、特に問題は起こりませんでしたよね。ゆくゆくは、社会人交換留学が各社で普通に行われる取り組みになってほしいと思います。こうして取材対象にもならないくらいに(笑)。

白:そうですね。ちょっと準備に時間がかかってしまいましたが、1年ぶりの今回、ドリコムからは石川に1週間アカツキさんへ留学してきてもらいました。

石川(以下、石):本当にいい経験でした。僕は、エンジニア歴はもう10年以上になりますが、普段ブログを書いたりもしないですし、勉強会やイベントに登壇するようなタイプでもなく、エンジニアとしてそれほど目立つことはしていません。ところが、ひょんなことから交換留学に参加し、こうして取材などで表に出ることになって…。自分の意思だけではできないことだったと思います。

白:対外的には目立っていなくても、社内で信頼されている“縁の下の力持ち”的な人が社外に出るきっかけになると嬉しいと思っています。

田:そういったきっかけとして、この施策を利用するのも1つですよね。一方、アカツキでは当時入社8ヶ月だった若手の下村が参加させていただきました。

 

下村(以下、下):僕は、エンジニア歴は3年です。今となっては、交換留学は貴重な経験だったと言えますが、最初は自分が会社の代表として参加することにプレッシャーを感じましたね…。成果を出すことはできるだろうか、爪痕は残せるだろうか、と。

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田:でも、それは良いプレッシャーですよね。他の会社で自分がどれだけのことができるのか試してみたいという気持ちは、皆少なからず心のどこかで持っていると思います。

石:僕もたしかに緊張はしていたんですが、不安と期待が入り混じったような感覚でしたね。会社に籍を置きながら、他社の様子を知れる機会なんてめったにないので。会社が違えば、始業時間も違うし、通勤ルートも変わる。転職したかのような、新鮮な気持ちになりました。

田:長く同じ環境にいると、多少のマンネリ化は当然起こってきます。たとえ1週間でも環境を変えれば、その後の意識もガラッと変わるでしょうね。

下:最初は、「マナーとかどうしよう」みたいな、新入社員になりたての頃のような不安が一瞬生まれました(笑)。アットホームな社風のアカツキに対し、オフィスが大きいドリコムさんは平均年齢も当社より少し上ということで、厳格な印象があって。ただ、結果的に皆さん気さくで安心しましたけど。

 

■比較して実感できる自社の魅力

石:僕も、行ってみたら意外と1日目からすぐに馴染めたんですよね(笑)。皆さん、すごく柔らかく接してくださって。あと、「朝会」効果も大きかったと思います。アカツキさんには、毎朝、全社員が集まる「朝会」があるので、そこで挨拶することで社員の方に顔を覚えてもらえたんです。ドリコムは正社員だけでも250人を超えるので、全社員が毎日集まることは現実的に難しい。だからこそ、新鮮な空間でした。

下:社風の違いは他社へ行って改めて実感しますよね。僕は、ドリコムさんのチャット文化が驚きでした。チャットツール自体は多くの会社が使っていると思いますが、チャットでの会話量がドリコムさんはすごく多かったんです。特に、雑談のようなラフな会話がアカツキよりもはるかに多く交わされていました。

白:ドリコムでは、チャットルームを解放して、サークル活動や同じ趣味を持つ人を集めたチャットルームなど、誰でも自由にオープンなチャンネルをつくれるようにしています。

田:一方、アカツキではこれまでチャットは業務的なことにしか使っていなかったんですよね。社員数的にも、直接コミュニケーションをとることが容易だったので、チャット量は自然と少なくなっていました。

下:直接の会話で事が足りていたんですよね。でも僕が、「ドリコムさんのチャット文化は良い!」と感じて社内に持ち帰り、ついにアカツキでもチャットルームが自由につくれるようになりました。今はサバゲーのサークルチャットができたり、エンジニアが新しい技術トピックに関するチャットルームをつくって情報交換したりという、良い効果が生まれています。

白:文化って、比較しないとなかなか実感できないものですよね。雑談量が多いというチャット文化も、良いのか悪いのか、自社だけを見ていると正直わからない部分もありました。仕事の効率が下がっていないだろうか、もっと直接会って話した方がいいんじゃないか、とも思っていたのですが、こうして交換留学を通して「良い文化だ」と言っていただけると、改めて自社の魅力にも気づけます。

下:普段からチャットで会話をしていると、直接話しかける時のハードルも下がるなと感じました。他にも、開発スタイルも両社で大きく違っていました。アカツキは、プロジェクトごとに自由な技術を用いる文化があるのですが、ドリコムさんでは全社的に同じ技術を使われていて、効率化が図られていたんです。

石:皆が同じ技術を使っていれば、得たノウハウの還元も容易になりますからね。ドリコムの場合、組織全体で結果を出すという志向が強いんです。

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田:組織の運営方法において、PDCAのサイクルをすごく速く回されている。今後の当社の組織体制を考える上で大きなヒントになりました。

下:交換留学では、こういった社内文化の違いを持って帰ってこられたことも大きな成果だったと思います。

白:また、当事者だけでなく、周りの社員や社内にも良い影響を与えられたのではないかと思っています。やはり、留学に来る人のことは皆が注目しますし、1人で乗り込んでくるなんて、「勇気があるなぁ」とリスペクトの気持ちも生まれます。いい刺激になっていると嬉しいですね。

下:本当に、あっという間の1週間でしたよね。

石:はい。最終日は寂しい気持ちになりましたね。

 

■「共有することが善」のエンジニア文化

石:でも改めて考えると、他の業界だったら1週間も競合他社の現場を見せてもらえるなんて、あり得ないことですよね(笑)。

下:たしかに。でも、不思議とライバル意識はなかったですね。横の繋がりを大切にする、IT業界ならではのような気がします。

石:業界の特徴もあるかもしれませんが、エンジニアって、暗黙の了解として「共有することが善」みたいな前提がありますよね。

田:ありますね。他社の人を招いた勉強会を開催して学んだことをシェアしたり、オープンソースでコードを書いたり。

白:改めて考えると、なぜでしょうね。「すごいだろ」って自慢したくなる気持ちから生まれるのかなぁ…(笑)。とにかく、当たり前のように共有文化がありますよね。

田:「共有することが実は富を生む」ということがわかってきたというのもありますよね。OSの世界でも、もともとはコードが公開されていませんでしたが、今使われているOSの半分以上はLinuxとしてソースが公開されている。

白:隠す理由があまりないんですよね。特許を取るようなものも少ないですし。

下:業界が変化するスピードも、とてつもなく速いですからね。数ヶ月後に、新しい技術が主流になっている可能性だって大いにありますし。その流れに乗っていくためにも、皆で共有するメリットは大きいと思います。

田:エンジニアには、もともとそういった共有文化が根づいていますが、社会人交換留学って、エンジニア以外の職種でも実現できますかね?

白:そう言われてみると…エンジニアだからやりやすかったというのはあるかもしれませんね。エンジニアって“手に職”系の仕事ですし、オープンソースなどである程度レギュレーションが決まっていて、標準化・体系化されていますからね。

下:共通言語が明確だから、環境が変わっても適応しやすいのかもしれません。

石:そうかもしれませんね。デザイナーなどにも一定の共通言語はあるとは思いますが、おそらくエンジニアよりも一人ひとりの“テイスト”の比重が大きくなってきますよね。でも、きっと他の職種でもやってみる価値はありそうですね!

 

■いずれは会社間の国境がなくなる?

田:今回、“ボーダレス”が社会人交換留学でのテーマだったじゃないですか。エンジニア業界では、数十年後には今の“会社”という国境がなくなり、プロジェクト単位で人を集めて仕事を進める形になるとも言われていますが、交換留学の成果を見て、それに近い未来は本当に来るかもしれないと思いました。

白:オープンソースの世界では、すでにそうなっていますしね。能力がマッチする人たちが集まって、1つのプロジェクトを作っていくような。

田:はい。ただ、僕は“会社”という組織がなくなってしまうとは思っていなくて。まずは会社同士が繋がって、その中で人材交流が行われるというのが最初に来るステップかと思うんです。

白:田中さんの話を聞いてふと思ったんですが、テレビ番組をつくるのと少し似ているのかもしれませんよね。ドリコム所属の白石がいて、アカツキ所属の田中さんがいて、番組をつくる時に呼ばれるという、プロダクション制のような。テレビ番組って、制作会社で見ると、割とボーダレスじゃないですか。

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石:エンジニアもそういう風になったら面白そうですね。環境によって、個々が出せる成果が変わることもあります。それぞれが最大限の成果を出せる環境を整えるという意味でも、その流れはいいなと思います。

下:僕も田中の「“会社”という組織はなくならない」というところに共感しています。まだ個々が完全なフリーランスになるという段階ではないかなと思っていて。フリーランスはどうしてもプロジェクトごとの短い付き合いになりがちですが、会社では成長などの期待値を見越してプロジェクトを任せてもらえますし、チーム一丸となって、また皆で次の新しい開発にチャレンジできる喜びは大きいと感じます。

田:たしかに。僕はアカツキにいる“人”が好きなんですよね。この人たちと一緒にずっと仕事をしていきたいなと思います。フリーランスって、やはり孤独じゃないですか。現状の結果でシビアに評価されて、自分1人で勝負し続けるのはなかなか辛いですよね。組織の影響力を利用して、大きい仕事にコミットできるのは会社に所属するメリットだと感じますね。

白:同感です。ドリコムには「with entertainment~人々の期待を超える~」というmissionがあるのですが、期待を超える新しい発明(サービス・仕事)に参画するって、なかなか1人ではできないことだと思うんです。

石:あとは好みにもよりますよね。チームの一員として皆と成果をあげることに生きがいを感じるのか、それともフリーランスとして己の強さを磨いていくのか。

下:僕としては、“自分の帰る場所”があるのはやはり大きいと思いますね。安心できる地盤があると、仕事にもしっかり打ち込めますし。

田:とはいえ、井の中の蛙にはなりたくないっていうのもあるんですよね。

白:そうそう! だからこそ、社会人交換留学のような機会っていいですよね。

田:成長って、適応することと勘違いしてしまうことがあると思うんです。もちろん、環境に適応することも大事なことではありますが、それって本当の成長ではなくて。本当の成長は、別の場所へ行っても同じように活躍できることだと思うんです。そして、自分が本当に成長しているかどうかって、やはり他の組織や人と比べてみないとわからないんですよね。

石:そういった成長の意味では、フリーランスで孤独に闘っていくのも1つの道ではあるのかもしれませんね。成長の種類にもよりますよね。

白:チームプレイやリーダーとしては、会社にいた方が成長できる気がします。エンジニアって千人力みたいなことが本当にある職種だと思っていて。たとえばプログラミングなど、1人のエンジニアの力によって、驚く人数の生産性を上げることも可能です。エンジニアほど生産性に違いがでる職種って珍しいと思うんです。

下:組織にいると、そういった成果をあげられた時に大きなやりがいを感じますよね。

田:妄想を形にできるのも、エンジニアの醍醐味ですね。ゲームを作るのも、妄想を形にするということ。細かいところで言うと、これが百倍速くなったらいいなと思って、自分でそのカギを見つけてアプローチをかけて、本当に百倍速くなったらめちゃくちゃ嬉しい。

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石:エンジニアって表立った仕事ではないかもしれないですが、「いい仕事してくれたね」と気づいて声を掛けてもらえるとすごく嬉しいですね。

白:改めて考えると、エンジニアって面白い職種ですね(笑)。社会人交換留学は終えましたが、これからもアカツキさん、特に田中さん、下村さんのおふたりには注目し、応援しています。今度ともよろしくお願いします。

田:ありがとうございます。今後も応援しあえる存在でいたいですね。今後ともよろしくお願いします。

 

取材・執筆/高橋優紀 編集/坪井安奈 『Grand Style7  20167月発行

 

 

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