動画広告 ✖ SNS を用いた新たなweb広告戦略〜タカラトミー・オプト 『人生ゲーム』の事例

「空港で人生ゲームやってみた」

2016年の年明け、そんな動画がFacebook上に流れてきた人も多いのでは?
『人生ゲーム』といえば、誰もが一度は遊んだ王道ゲーム。そんなゲームのPR動画をなぜ今つくったのでしょうか。
その背景やエピソード、さらにweb動画の今後についてお伺いしました。

※この記事は、2016年4月発行『GrandStyle 』を編集したものです。
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(中央)株式会社タカラトミー 次世代マーケティング部WEBマーケティング課
竹川 洋志
ゲーム、玩具業界でプロモーション、マーケティング業務に携わった後、現在はタカラトミーでwebをはじめとしたマーケティング企画を遂行するチームを率いる。

(右)株式会社オプト オンラインビデオアドソリューション部
松本 康成
TVCMディレクターを経て、さまざまな企業のブランディングやwebのマーケティングプロモーションに従事。本動画のクリエイティブディレクター。

 (左)株式会社オプト ブランド戦略部 部長
榎本 佳代
ダイレクトプロモーションの経験を基に、デジタルを活用したブランディング支援に従事。メディア、生活者の環境変化に合わせたマーケティング提案を行う。

 

空港で“リアル”人生ゲーム。ロングセラー商品に鮮度を

―なぜ今、『人生ゲーム』を動画でPR?

松本:今日は、2016年1月8日から公開している動画『人生ゲーム「人生に驚きと歓びを」篇』の事例をもとに、webや動画広告の今後についてお話しします。よろしくお願いします。

竹川:タカラトミーは、『人生ゲーム』をはじめ、『黒ひげ危機一髪』や『リカちゃん』など、世の中で広く知られているロングセラー商品を多く扱っています。ただ、ロングセラー商品というのは、長く愛していただいている反面、商品自体の鮮度を保ち続けることが難しい。そこで、ロングセラー商品に新たな鮮度を出したいと思い、オプトさんと協力して今回の動画を制作したんです。

 

松本:はい。誰もが知っている『人生ゲーム』を、今までと違った角度で見せたいと思いました。おかげさまで、動画再生回数は1千万回を超え、大きな反響をいただいています。1千万回のうち、約7割がFacebookから、2割がTwitterからの流入という内訳です。

 

竹川:目標の100万回再生を大きく上回る結果でした。ちょうど最新版『人生ゲーム』のリリースも控えていて、ティザーキャンペーンの意味合いも含んでいましたが、1年の初めに『人生ゲーム』に乗せて何かメッセージを送れたら…というのが今回の着想です。

 

松本:今回は広告というよりも口コミでのオーガニックのリーチを高めることを目的としていたこともあり、SNS上でのweb動画という手段を用いました。

 

榎本:最近は、“つくりもの”に対して強いアレルギー反応を持つユーザーもいますし、広告だとわかった瞬間にシャットアウトされてしまうこともありますからね。

 

松本:ええ。それも見せ方次第ですが、“広告の動画”と“友人の推奨動画”ではユーザーの受け入れ方が全く違うので、“友人知人がシェアした動画”という視点で視聴されるように考えました。

 

要素の掛け合わせがバズを生む

―今回の動画のバズ要素とは

バズ要素①:ベースの認知

松本:まず、「リアル人生ゲームやってみた」だけで、誰もが動画の設定を理解できることが大きかったと思います。

 

竹川:そうですね。すでに多くの方が周知のゲームなので、「人生ゲームとは」というそもそもの説明を省略できましたし、オンリーワンのプロダクトなので、何かと比較・差別化する必要もなく、動画のクリエイティブだけに集中できたのは幸せでした。

 

榎本:ベースの認知があったので、視聴者の拡散や反応スピードが速かったのでしょうね。

 

竹川:この点は、他のベストセラー商品にも活かせるポイントだと思います。

 

バズ要素②:笑い×感動

松本:感情の掛け合わせも意識した部分です。最近は「ユーザーが“感動疲れ”している」とも聞きます。なので、冒頭からいかにも泣かせモードではなく、まずはユーモアから入り、後半に意表を突く形で感動を持ってきました。

 

竹川:感情のギャップが生まれて、意外性がありましたね。目の肥えた視聴者を良い意味で裏切れたのではないでしょうか。

 

榎本:「お笑い系かと思って観ていたら、最後泣けてヤバかった」など、実際にもそういったコメントが多かったですね。

 

松本:コメントを見ていると、感動軸もまだまだ有効だと感じましたが、とはいえ、今後は要素の掛け合わせや意外性はさらに必要になってくると思います。今回の動画内には、“笑い”“感動”の大きな軸だけではなく、“成人式”“結婚式”“親子愛”“サプライズ”など、細かい要素も散りばめました。

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 バズ要素③:リアリティの追求

松本:そして、リアリティの追求が多くのユーザーの共感を呼べたのかなと感じます。今回、サプライズを受ける人のリアクションはすべて一発撮りですし、なるべくつくり手の意図を感じさせない撮り方にこだわりました。

 

竹川:それに、“成人式を迎える娘さんと、結婚式を挙げていないご両親”というご家族は、設定したものではなく本物のご家族ですからね。

 

榎本:本当に奇跡的なキャスティングでしたね。リアルストーリーで動画を制作していたので、ユーザーが共感し、シェアしやすかったのも成功の要因だったと感じますね。

 

竹川:撮り直しの効かない、出来高次第の一発勝負。始終、緊張感の漂う撮影でした。本当にドキドキしましたね(笑)。

 

バズ要素④:世代・メディアごとのアプローチ方法

松本:マーケティングにおいては、世代ごとに拡散要素を整理し、アプローチ方法を変える工夫をしています。“成人式”“結婚式”“親子愛”…年齢によって共感するポイントは異なるので、たとえば、主婦だったら結婚式、20代なら成人式…というように、アプローチする世代に合わせて、出稿する際の見出しやテキストの切り口を変えたり、工夫を凝らしました。

 

榎本:デジタルはターゲットに合わせて適切な配信設計ができるため、世代だけでなく、メディアごとにもテキスト表現の調整が必要だと思います。たとえば、Twitterなら“新しい”に反応した人がリツイートしたり、動画メディアのgrapeなら“感動”して誰かに伝えたくて拡散するなどの特性があるので、メディアごとの拡散経路の違いも意識していくことでユーザーの反応も大きく変わると思います。

 

松本:表示されるムービーキャプチャも、世代ごと・メディアごとに10通り以上制作しました。自然とシェアしたくなるように、ターゲットに合わせて設計をしていきました。

 

竹川:常にユーザーの反応を見て、検証をしながら運営をしていただいたので、アプローチの確度はどんどん高まっていったと実感しています。

 

■web動画はプロモーションでなく、コミュニケーション

―web動画の利点とは

 利点①:長尺で理解・共感を促す

松本:TVCMは、15秒、30秒などの短い尺に情報を詰め込まなければならないので、どうしても告知や認知が目的になりがちです。しかし、認知だけだと、「知ってはいるけど買わない」という状況に陥る可能性もあり、視聴後のアクションに繋げるのはなかなか難しいんです。
一方で、web動画は尺に捉われないので、視聴者との密なコミュニケーションを図れます。理解や共感の深度を高めることができ、その後の購入アクションにも繋げやすくなります。

 

榎本:好意形成の促進に繋がりますし、理解や共感の促進はweb動画広告の得意領域ですよね。でも、ただ時間が長ければいいというわけではないですよね。

 

松本:その通りですね。YouTubeの動画広告、TrueViewにおける当社の実績を分析したところ、視聴率やクリック率が高いのは60~90秒くらいの動画でした。TrueViewは受け手の意思に関係なく広告を届けるプッシュ型広告なので、今回の動画と同じ視点では語れませんが、『人生ゲーム』の動画の4分強の長さはやはり不安でした。

 

竹川:ただ、それでもこれだけの再生回数を達成できたことは、良いコンテンツであれば最後まで観てもらえるのだという実感に繋がりましたよね。

 

松本:そうですね。web動画のクオリティやコンテンツ力は今後もさらに問われていくと思います。web動画の視聴は当たり前になってきていますし、スマホのカメラで日常的に高画質な動画が撮れる時代です。そうやってプロとアマの境がなくなってきた時に、上から目線でもなく、横並びでもなく、ちょっと違う部分を出すというバランス感覚が必要になってくると思います。

 

利点②:ターゲットへの的確なリーチ

榎本:狙ったターゲットにリーチするには、webの方が効率的な場合もあります。今回の『人生ゲーム』の動画もそうですが、一人ひとりに合わせた共感ポイントを設定し、対象者に的確にリーチすることで、シェアや拡散を促すことに成功しています。最初から全員に接触するのではなく、まずは拡散力のある人をターゲットにすることで、そこから伝播していく流れが生まれたんです。

 

竹川:実際に今回の動画施策で、『人生ゲーム』は昨年対比で100数十パーセントという売り上げ実績を出すことができました。中長期なブランドの向上を考えていたのですが、すぐに成果にも表れたことには驚きました。

 

松本:嬉しいですね。テレビは“ながら観”が多いですが、web動画は能動的に観ることが求められるので、態度変容にも繋がりやすいのだと思います。

 

利点③:結果がリアルタイムに表れる

松本:また、TVCMが一方通行の発信になってしまうのに対して、視聴者の反応をダイレクトに受け取れるのはweb動画の利点ですね。コメントやクリック数、シェア数などで結果がはっきりと表れる。そこがwebの魅力でもあり、逆にシビアな部分でもあります。

 

榎本:ユーザーといかにフレンドリーな関係を築けるかが重要ですよね。今は情報も、企業から発信するものよりもユーザーが発信する方が多くなり、企業ブランドも自社がコントロールできるものではなくなってきている。すべての選択はユーザーに主導権があって、企業が「これいいですよ」という押し売りはできなくなっているんです。自分たちのブランドは、ユーザーと共につくっているという視点を持つことがますます肝要になってくると思います。つまり、プロモーションというより、コミュニケーションなのだという認識が必要ですよね。

 

利点④:多方面での活用の可能性

竹川:最近は、知名度がなくともバズっている事例もよく見かけます。たとえば、宮崎県小林市の移住促進PRムービーはweb動画でしたけど、テレビにも取り上げられるほど話題になりましたよね。そういった自治体のPRにもwebは向いているかもしれません。

 

松本:企業側としても、TVCMでは難しい表現がwebなら可能になるケースもあります。

 

榎本:拡散系の動画だけでなく、最近はHOW TO系の動画を制作する企業も増えています。着物メーカーが着付けの動画を作成したり、ヘアアレンジのやり方を紹介したり。

 

竹川:アウトドア用品のメーカーがテントの張り方の動画を作成したり、ですよね。YouTuberやニコニコ動画のゲーム実況も、ゲーム攻略におけるHOW TO動画ですね。

 

松本:ヘルプ的な要素ですね。困った時にすぐに検索する時代なので、「困った時、この会社が助けてくれる」というのはその企業のブランディングにも繋がります。そこから、その企業の商品を購入する可能性も大いに考えられますね。

 

榎本:目的はさまざまですが、web動画にチャレンジする企業は徐々に増えています。これまで大きな広告やマーケティングを行ってきたナショナルクライアントの中には「マスマーケティングだけでは多様な生活者のニーズに応えきれていない実感があるが、大きく舵を切ると売上が落ちそうでなかなかチャレンジできない」とジレンマを抱えているところも多いです。そういった企業ほどトライする余地はあるでしょうね。

 

松本:これまでのTVCMの予算を、そのままwebの施策に投下する方が効率的だという考え方や、違ったアプローチも生まれてくるかもしれませんね。

 

松本:ただ、webかテレビか、というのは使い分け次第だと思います。やはり、認知という面で見るとTVCMには絶大な効果がありますし、会社がブランド力をつける上でも有効です。メジャー感や信頼感を一気に醸成し、売り上げに繋げることができると思います。

 

竹川:スマホのアプリやゲーム関連企業は今もTVCMを主流としていますが、今言ったような理由が挙げられるからかもしれません。

 

松本:そうですね。ただ、そもそも家にテレビがないなど若年層のテレビ離れが生じていることは確かなので、そこを考慮しつつも、目的によって使い分けていくことが必要だと思います。TVCMは、一定の出稿量を超えるとリーチの飽和点を迎えるので、過剰配信分をweb動画などにシフトして、新たなユーザーの接触率を高めるなどの施策も検討できるでしょうね。

 

■SNSによってノンバーバル(非言語)な感覚の共有が容易になった

松本:今は、物も情報も人が処理できる量を超えている状況。興味がないものは簡単にブロックされてしまう時代なので、広告もいかにユーザーが興味のあるコンテンツにしていくかが大事になっています。つまり、“共感”されないと選ばれにくい。

 

榎本:そうですね。昔は「おいしいです」「ナンバーワンです」などと機能を訴求すれば売れていた時代もありましたが、今は技術革新が進み、どれを手にとっても同じように質は高く、もはやサービスやプロダクトの良し悪しだけでは選べなくなってきています。商品自体よりも、“共感”などの自分の趣味嗜好に通じる感覚が選ぶ基準になってきている。そんななかで自社の商品を選んでもらうためには、「なんかいいな」という情緒的な部分をどうビジュアライズしていくかがポイントになってくると思います。

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竹川:広告においても、ノンバーバルなコミュニケーションが一つのキーワードになってくるかもしれませんね。そして、SNSが盛り上がっている今は、「なんかいいな」というような感覚を共有する敷居が低いと感じます。LINEのスタンプのみで会話をするのもそうですね。言葉で楽しい気持ちを表現するより、スタンプで視覚的に伝える方がお互いにわかりやすかったりします。

 

榎本:Facebookの「いいね」もまさに簡単に共感を表せる方法ですよね。今はwebで簡単に情報発信ができ、それに対する反応や共感も「いいね」で気軽にできる。SNSによって、ユーザーと感覚の共有がしやくすなっていることを、広告の分野にも活かしていくことができるのではないかと思います。Instagramなど国境のボーダーレス化が起こっているSNSもありますし、ビジュアルマーケティングは今後さらに注目していきたい分野です。

 

松本:僕は、ノンバーバルのなかにも、“つくり込んだノンバーバル”と“リアルなノンバーバル”の2種類があると思っています。たとえば、TVCMのように美味しさや綺麗さを照明やCGを駆使して表現し、欲望や憧れを刺激するのが“つくり込んだノンバーバル”だとしたら、芸能人がスッピンをブログで披露するのが “リアルなノンバーバル”。そして、僕は後者の“リアルなノンバーバル”の方がwebでは親和性が高いのではないかと感じています。同じノンバーバルでも、メディア属性を踏まえて表現を使い分けていけば、よりうまくいく気がしますね。

 

広告にも企業姿勢が問われる時代

―今後の広告・マーケティングの傾向

榎本:ユーザーの関心は目まぐるしく変わるので、次に同じことをやっても同じ結果が出るとは思えないですし、成功パターンを掴むのは非常に難しいですよね。

 

松本:そうなんです。ただ、個人的に思っているのは、「企業として良いことをしているのか」「人のためになっているのか」という姿勢の伝わるクリエイティブは、今後主流になっていく気がします。SNSでの拡散のされ方を見ていても、もはやインパクトより、企業姿勢を垣間見られるものの方が多く拡散されていると感じます。

 

竹川:企業側が、どんな思いでプロモーションをしているのかが問われていくということですね。企業側の思惑は、ユーザーには透けるように伝わりますからね。

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榎本:ユーザーの目はどんどん養われています。「どうせ泣かせたいんでしょ」「どうせ広告でしょ」と、ユーザーに疑いの目を持つ意識があることは忘れてはいけません。

 

松本:企業側は、そんな疑いを超えるような思いを、真摯に、誠実に出していくことが必要になってくると思います。生の感動やリアルが存在するから共感するし、シェアも生まれる。人がどう感じて、次にどんな行動に移すかを知ることが大事だと思います。

 

榎本:企業が伝えたいこととユーザーが共感できることのちょうど良い部分を見つけ出して、橋渡しをしていくことが我々webの力でマーケティングを推進するe-marketing companyの役割だと思っています。そのためには、それぞれのSNSやメディアの特性を理解していることが前提ですし、常に新しいメディアを追い続けていかないといけないと思いますね。なんて言いながら、実際についていくのはとても大変ですが(笑)。

 

竹川:わかります。本当に当事者であり続けないといけないと思いますね。そう思って、最近ミクチャ(『MixChannel』)を覗いてみたんですが、あれを僕の世代が使うのは難しいですね(苦笑)。でも、まずは登録して実態を見てみるということは大事だと思うんですよね。
また、ARや360度動画、インタラクティブムービーなどの面白い技術にも火がつき始めています。まだ今の時点では面白い飛び道具としか見られてないかもしれませんが、そこに表現が伴えば、本当の意味での道具になっていくと思います。そういった新しい技術も、タイミングを見て積極的に取り入れていきたいですね。

 

松本:そうですね。ユーザーコンテンツが大きな影響力を持ち、当たり前になりつつある今、広告もそこから発想したものがどんどん増えていくと思います。オプトには、20代前半でまさに今自分たちがインフルエンサーとして影響力を持ち、生のユーザーの反応を日々取得している社員がたくさんいます。彼らは常にユーザー視点を持ち、InstagramならInstagram、YouTubeならYouTubeなどそれぞれの世界観を理解してプランニングをしています。これからもその当事者意識を持った姿勢を貫いてほしいですね。

 

 

企画制作=OPT+AOIPro.+C3Film / CD+Plan+Copy=松本康成 / VideoPlanner=伊藤弘明・中村駿介 / PR=吉原実希 / Director=黒柳勝喜 / Planner=伊勢田世山・伊関千尋 /  Photographer=遠藤裕美子 / Art=河島康・三上栄治/ Account Director=尾中康宏/ Producer=江上耕介・生田静香/ PM=須貝卓実

 

※取材・執筆/香川妙美 編集/坪井安奈 『Grand Style』6号  2016年4月発行

 

 

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