interview

2017年2月4日

ラジオ時代復活

新たなメディアとしての確立を目指して

最近、ひそかにブームとして広がりつつあるラジオ。その後ろ盾となっているのが、「シェアラジオ」や「タイムフリー聴取」で昨年話題にもなったネットラジオ聴取サービス『radiko』です。そこで今回は、radiko発案者である三浦文夫さんに、IT×ラジオの今後を伺いました。
最近、ひそかにブームとして広がりつつあるラジオ。その後ろ盾となっているのが、「シェアラジオ」や「タイムフリー聴取」で昨年話題にもなったネットラジオ聴取サービス『radiko』です。そこで今回は、radiko発案者である三浦文夫さんに、IT×ラジオの今後を伺いました。

※この記事は、2017年1月発行『Grand Style』の記事を一部編集したものです。

関西大学

社会学部メディア専攻教授

三浦 文夫

1957年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、電通に入社。’95年日本初のインターネットライブ中継を手がけ、その後radikoを考案。2012年関西大学の教授に就任、(株)radikoフェロー、(株)スペースシャワーネットワーク社外取締役、元一般社団法人日本民間放送連盟ラジオメディア再価値化研究グループ座長。

 

ラジオは漢方薬のようなもの

 

「ラジオの魅力ってなんですか?」と聞かれることがよくあります。僕が思うに、ラジオって、“漢方薬”のようなものなんです。飲んですぐに効果があるわけではなく、毎日、毎週、長い時間じっくり聴き続けて、じわりじわりと面白さが見えてくる。|いつも寄り添っていないと成り立たないメディアなんですよね。だから、ハマる人はとことんハマるんですが、そこへたどり着くのにはどうしても時間がかかります。

ラジオは音声だけのメディアなので、リスナーには想像力やリテラシーが要求されます。でも、だからこそ、ラジオは自分だけの世界が広がる場であり、知らなかったものを見せてくれるという大きな魅力があるんです。僕はラジオのおかげで多くのものに出会いました。特に音楽には深くハマって、人生がとても豊かになりました。ラジオがなければ、僕の人生はもっとつまらないものになっていたでしょう。

 

人を育てるという役割

 

ラジオを聴くことは、人付き合いにも似ているかもしれません。じっくりと関係を構築していくなかで、そこにインタラクションが生まれ、リスナーとの間には独特の絆が生まれます。一過性のブームで終わるのではなく、お互いがいつでもそこにいてくれるような、そんな存在。だから、パーソナリティへの愛着も強く、根強いファンが多くいるのです。

そういった関係性から、昔はラジオによってアーティストの知名度や楽曲が広く知れ渡っていくということがたくさんありました。若い世代の人は知らないかもしれませんが、実は宇多田ヒカルさんは、ラジオからヒットしたアーティストなんですよ。デビュー当初、彼女のプロモーションはFMラジオ放送の出演だけでした。しかし、そこから音楽関係者やファンのあいだで話題となり、CDショップでも強くレコメンドするようになり、大ヒットを遂げて今の彼女の活躍に至ります。

芸人の方にとってもラジオは強い味方でした。ラジオでは、テレビのように構成作家が綿密な台本を書くなどということはしません。「今日のトピックはこういう感じ」程度にしか決めないので、アドリブ力や引き出しがないとリスナーにはすぐにバレてしまいます。だから、出演者は必死に勉強して、トーク力を磨いていけるのです。かつてラジオには、アーティストや芸人を育てるという大きな役割があったのです。

 

構想から15年越しの実現

 

そんなラジオの魅力や役割を今の時代にもう一度復活させたいと思い、始動したのがradikoプロジェクトです。radikoは、ユーザーが今いるエリアで放送しているラジオをインターネット上で聴くことができるサービスで、’10年にリリースしました。ただ、実はradikoの構想自体は’95年のインターネット黎明期から思い描いていました。当時も、ストリーミング配信のような取り組みを行っていたのですが、時期が早すぎたことと、広告や権利関係の問題から1年足らずで終了していたんです。しかし、スマホが広がりだしたタイミングで、’05年にプロジェクトを再始動させ、今回はサービスのリリースまでたどり着けたというわけ。

 

マネタイズよりもビジョン

 

まだまだ道半ばではありますが、radikoは“マネタイズを急がなかった”ことが1つの成功要因だったと思います。radikoは今、アプリの累計ダウンロード数2000万、月間ユニークユーザー数約1200万人ですが、広告は一切入れず、収益はプレミアム会員の月額料金(350円)のみです。IT業界の通説で考えれば異例なことかもしれません。マネタイズを焦らずにやってこられたのは、当初から先々を見通したビジョンを明確に持ち、メディアとしての全体の理想図を綿密に描いていたからに他なりません。どんな時も、技術の前に“どうあるべきか”を考えて進めてきました。そうして結果的に、現在は33万人以上の方にプレミアム会員に加入していただいています
日本の美しい里山のように、日本人が昔から大切にしてきたラジオという風景を、乱すことなく持続させていきたい|そんな日本的な独特のプラットフォームをradikoは目指しています。

 

時代に合った聴き方を

 

昨年10月からは、「シェアラジオ」と「タイムフリー聴取」の新たな機能を追加しました。今は、SNSが生活のなかの大きなメディア環境を占めています。ラジオもその領域に入り込んでいく必要性を感じ、若者に向けて始めたのがシェアラジオです。シェアラジオは、面白いと思ったトークや音楽など指定した箇所をSNSでシェアできる機能です。シェアしたURLからはすぐにラジオを聴くことができるので、そこから新たなリスナーを増やすことを狙いとしています。まずはシェアによって存在を知ってもらうことが、ラジオの面白さを感じてもらうことへの一歩だと思っています。

一方、「タイムフリー聴取」は、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことができる機能です。タイムフリー聴取が始まることで、リアルタイムで聴く人が減るのではないかという懸念もあったのですが、今のところそこへの影響はなく、全体のユーザー数は着実に伸びています。

 

新・ラジオ時代の幕開け

 

Instagramや動画の盛り上がりから見ても、今は視覚的な情報が重視される時代です。しかも、その場所でのユーザーのセッション時間はとても短く、画像なら1秒未満、動画ならたった30秒で判断されてしまいます。じっくりと音声情報を楽しむ本来のラジオとは、真逆の風潮です(笑)。今後はラジオでも、今何を話しているのかが一目でわかる見出しやキャプションをスマホ上に表示したり、気になるコーナーだけをピックアップして聴けるような仕組みも必要になってくると思っています。

若い世代には、おそらくラジオを知らずに育った人たちも多いと思います。でも、だからこそ、ラジオを全く新しいメディアとして捉えてもらえる可能性も強く感じています。アナログな良さと最新のテクノロジーを掛け合わせ、新しいメディアとしてラジオをもう一度盛り上げていきたいですね。

取材・文高田 将吾

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科所属。大学入学と同時に、『Tokyo graffiti』の編集に携わる。2014年12月より『Grand Style』に編集デザイナーとして参加。現在は、編集者として企画・取材・編集を行い、デザイナーとしてレイアウトデザインを担当する。また、株式会社DesignCatに所属しITとデザインを使った地域創生を目標に活動中。